身体拘束・虐待防止委員会 勉強会
令和6年度 第1回勉強会をおこないました。
今回は「虐待防止について」と「身体拘束防止について」を学びました。
○ ある事例について考えてみましょう。 ○
・ある高齢者施設で職員が利用者さんのベッドでおむつ交換をしています。この2~3日元気の無い利用者さん。職員はおむつを替えながら「〇〇ちゃん最近元気ないでしょ。どうしたの~?」と話しかけました。それでも黙っている利用者さんを元気づけようと職員は「わ〜、〇〇ちゃんのおへそデベソだね。かわいぃ~。デベソさーん。」と話しかけながら、利用者さんのおへそを押しました。利用者さんは黙って目を伏せました。おむつ交換が終わってカーテンを開けると、そこには面会に来た娘さんが立っていました。娘さんは、父親である利用者さんにも、職員にも声をかけず、そのまま帰ってしまいました。
Q1~
なぜ職員は「デベソさーん」と言って、利用者のおへそを押したのでしょうか?
A~
・相手を元気づけようとしたのかもしれないが、相手が元気がないのであれば、ヘソを押すのではなく違うアプローチの仕方があったのではないか。
・本人が気にしていることだったのかもしれない。信頼関係があらかじめ構築できていれば言葉かけが成立する可能性もあるかもしれない。今回は職員が悪気なくコミュニケーションを図り相手を不快にさせたのかもしれない。
Q2~
黙って目を伏せた利用者さんはどのような気持ちだったのでしょうか?
A~
・調子が良くないのに何を言ってくれたのかと不愉快になり、腹も立ったと思う。本人にとっては容姿のことは気にしていることだったのかもしれない。職員は笑わせて励まそうとしたようだが、笑いに変えることができなかった。
・本人が不調の中での不用意な接触だった。相手が痛がったり、うっとうしかったり、気にしていて恥ずかしいことだったのかもしれない。
Q3~
利用者さんの娘さんが何も言わずに帰ったのはなぜでしょうか?
A~
・職員の対応に驚いたり、呆れたりしてその場で言葉を発することができなかった。
・何も反論できずにいる父にも、そういうことを言う職員にも不満があった。
・その場では何も言わなかったが、その後、相談員や施設責任者にクレームを伝えに行ったのかもしれない。
・娘さんについては父親への呼び方・距離感・扱いについてバカにされたり子供扱いされたことに驚いて、ただ黙っていたのかもしれない。
★悪気がないことであるからと言って、このくらいは許されるのではないかという発言や行動は、さらなる虐待につながることもありえます。この場合は家族も声を出せるような状況や雰囲気ではなかったと思われます。施設の雰囲気も、家族が何でも言える環境を作らなければいけません。今回の事例について、「〇〇ちゃん最近元気ないでしょ。どうしたの~?」というのは心理的虐待になります。「わ〜、〇〇ちゃんのおへそデベソだね。かわいぃ~。デベソさーん。」という対応は、利用者さんが屈辱的な気持ちになっている可能性があるので心理的虐待になります。また、おへそを押すという行動については、性的虐待や身体的虐待となる可能性もあります。
〇 5つの虐待の種類 〇
1. 身体的虐待
身体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴行を加えること。
2. 放棄・放任
衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、養護すべき義務を怠ること。
3. 心理的虐待
侮辱的な暴言または態度・無視・嫌がらせなど精神的苦痛を与える行為。
4. 性的虐待
合意の形成がなされていない、あらゆる形態の性的な行為。
5. 経済的虐待
財産を不当に処分すること、または高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
【 高齢者虐待防止法 】
第一条(目的)
この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。
● 虐待の三つのロックについて ●
・身体拘束を定義する「スリーロック」という定義があります。
① ドラッグロック… 薬物の過剰投与、不適切な投与で行動を抑制することです。
② フィジカルロック… 物理的な拘束をして身体の動きを制限することです。
③ スピーチロック… 言葉で相手の心身の動きを封じ込めてしまうことです。
・スピーチロックについて…
スピーチロックは、言葉による拘束のことで、「少し待って。」「〜しちゃダメ。」「立ち上がらないで。」「どうしてそんなことするの。」のように叱責の言葉も含まれます。どこからスピーチロックにあたるのか、明確な基準はありませんので、多くの介護現場で行われている可能性があるのが実情です。スピーチロックをされたことで、利用者さんの行動意欲が低下し、自ら意思表示をする気力が下がり、これまでできたことができなくなり要介護度が重くなってしまうことや、無視をされたことで拒絶されたと感じ被害妄想へつながってしまう可能性もあります。利用者さんを一人の人間として尊重することが大切であると考えます。
☆ 認知症の方を身体拘束する時の悪循環 ☆
身体拘束の実施 → 認知症状の出現
↑ ↓
安全・治療のための ← 過剰な治療・ケア
身体拘束 の必要性
★拘束などをして利用者さんに嫌な思いをさせないために、職員間で意見を言い合える職場の環境作りが大切であるという意見や、忙しい中でも利用者さんを最優先に考える支援の必要性があることが大切ではないかとの意見がございました。とても多くのことを学ぶことができた勉強会でございました。